なぜ「おじさん教えて」ストーリーはビジネス書界の「水戸黄門」なのか

中小企業診断士2次試験の筆記試験の結果発表が12月7日にあって、不合格だったわけだが、得点を知りたいので試験から4,5日後に得点開示請求を送った。その結果が届いたら記事更新しようと思っていたのだが、待てど暮らせど届かない。

そこで電話で問い合わせてみたところ、意外な事実(?)が判明して、結局2月上旬に来るらしい。

それについては、また、結果が届いてから詳細に書くつもりだが、今回はちょいと幕間つなぎ的な更新。いま、アマゾンで電子書籍Kindleのセール「『50%OFF以上』 ビジネス・実用書フェア」が実施されている。1月25日~2月8日までだ。

その中から、診断士試験の勉強に役立ちそうな本や、その他おすすめの本をいくつか紹介したい、と思っていたのだけど、書いているうちにぜんぜん違う話になってしまった。

『女子高生社長、ファイナンスを学ぶ がけっぷち経営奮闘記』(石野雄一)

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以前に、別の記事で紹介した『ざっくり分かるファイナンス』の石野雄一先生の著書である。『ざっくり分かるファイナンス』は、中小企業診断士1次試験の財務・会計をはじめて勉強する人は、必ず読んでおいた方がいい。しかし、それすら敷居が高そうだと思う方は、このような読みやすいストーリー仕立ての啓蒙書から入るのも、もちろん悪くない(個人的には通常価格ではちょっと二の足を踏むが、セールで半額なら買ってもいいかと思う)。

私は診断士の2次筆記試験で、今年は難化したと言われている事例4で「A」評価だったが、こういった書籍によって、ファイナンスの基本的な考え方をしっかり身に付けていたことが良かったと、いまでも思う。もちろん、アカウンティングの細かい計算ルールや速く計算するためのテクニックなども反復練習で身に付ける必要があり、両輪が必要だが、とにかく基礎的なファイナンス感覚は欠かせない。

ビジネス書の「必勝パターン」

ところで、この手の安直なストーリービジネス書の多くに共通のパターンがある。たとえば、

『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』(林總)
『100円のコーラを1000円で売る方法』(永井孝尚)
『ドリルを売るには穴を売れ』(佐藤義典)
『沈黙のWebマーケティング』(松尾茂起)
etc…

読まれた方も多いだろう。いずれも、ベストセラー、ロングセラーとなっている名著で、私もすべて購読している。解説されている内容は素晴らしい部分があり教えられるところは多かったが、そのストーリーの筋立て部分については、正直「しょーもな……」と思ってしまう。

どの本も、判で押したように、

・なにかで困っている無知な“小娘”がいて
・その道ではすごい実績を持つインテリのおじさんと知り合って、「おじさん教えて」とお願いする
・おじさんがコーチをしてやることで、小娘の抱えていた問題が解決して
・小娘がおじさんを尊敬してハッピーエンド

というワンパターンの筋立てになっている。それはもう「水戸黄門」かと思うくらいマンネリだ。

ビジネス書におけるこの「おじさん教えて」パターンを最初に発明した著者がだれなのか、残念ながら勉強不足で私は知らない。だが、それを最初に編み出した著書・編集者が必ずいるはずだ(もしご存知の方がいらしたら教えてください)。ビジネス書の「必勝パターン」のひとつを編み出したその方には、「ノーベルビジネス書賞」が贈られてしかるべきであろう。

おじさんたちのキモい欲望

自分がこの手の「おじさん教えて」パターンに「しょーもな……」と思う理由の1つは、「男=知識があり教える側、若い女=バカで教わる側」という100年前のジェンダーロールを相も変わらず繰り返している点だ。もう21世紀になってだいぶたつのに、いまだに「それ」かよ、と思う。

しかし、それ以上にしょーもない感じがするのは、そういう建て付けが広く受け入れられる背景に、「若い娘から尊敬されたい」というおじさんたちの、ドロドロした欲望、願望が透けて見える所だ。主人公のおじさんは、若い娘に偉そうに説教をして、そしてすごいと尊敬される。そんな(現実ではあり得ない)ストーリーが、ビジネス書の主要読者であるおじさんたちのハートをがっつりつかむのだろう。

そこが、なんとも気持ち悪い。

「いやそれは考えすぎでしょう」とあなたは言うかも知れない。しかし、それを裏付ける話を、先日ツイッターで読んだのだ。

それはある小説家のツイートだが、いま、早期退職あるいは定年退職で職場を去ったおじさんたちが出版社に持ち込んだり、文学賞に応募したりする作品に、共通のパターンがすごく増えている、という話だ。そのパターンというのが、

職場では「冴えないおじさん」と思われているおじさん社員(著者の分身)が、なにかのきっかけで隠れた能力を発揮。部下の若い女性に知られて、「◯◯さんって、実はこんなにすごい人だったんだ」と、尊敬を受ける(場合によっては、恋愛に発展する)。

というものだとか。

もう、それはそれはこのパターンばかりが多くて、「ハーレクインロマンス」のように、おじさんの「若い娘から尊敬されたい、見直されたい」という願望に特化した作品だけをラインナップしたブランドが作れるのではないか、というほどらしい。

もちろんそれは、ひとりの小説家がツイートしただけのこと(とはいえ、同意のツイートもたくさんあった)なので、ウラをとっているわけではない。しかし、ビジネス書における「おじさん教えて」パターンの隆盛を見ると、そういうことは十分あるだろうなと感じる。

そして、多くのおじさんの場合、それは単なるキモい妄想で終わるわけだけど、運悪くそういうおじさんが会社や組織でセコイ権力を持っていたりすると、セクハラ事案の発生につながることがあるのだろう。

なんの権力も持っていなくて、本当に良かった → 自分。

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