中小企業診断士1次試験の「保険受験」について

中小企業診断協会から、今年の中小企業診断士試験の日程が発表されました。例年と変わらず、8月最初の週末(3日、4日)に1次試験が実施されます。(以前から公表されているように、来年はオリンピック開催の影響でスケジュールが例年と異なる予定です)。

その1次試験にかんして、先日、ツイッターで「保険受験」が話題になりました。自分はそれまで、保険受験というものについてまったく意識していなかったのですが、よく考えると意外と悪くない方法だと思えてきました。

保険受験とは

中小企業診断士試験で1次試験に合格した人は、「その年」と「翌年」の2次試験の受験資格が得られます。つまり自分のように、昨年の1次試験に合格したものの2次試験で落ちた人は、今年は1次試験を受けなくても2次試験を受ける権利を得ているということです。

しかし、昨年1次試験に合格して、今年の2次受験の権利を持っている人が、あえて今年も1次試験を受験することがあります。それが「保険受験」と呼ばれる考え方です。

保険受験では、今年の1次試験に合格(420点以上)するか否かは、今年の2次の受験の権利に影響を与えません。不合格でも2次試験を受けることはできます。では、なぜわざわざ受ける必要が無い1次の受験をするかというと、今年の2次試験に落ちたときのことを考えて、来年の受験に備えるためです。

今年の1次試験に合格しておけば、来年も確実に2次試験を受けられます。2次試験の「一発勝負」は、かなり緊張を強いられるものなので、そこで「もし落ちても、来年も受けられる」ということがわかっていれば、精神的なプレッシャーはかなり減るかもしれません。これが、保険受験の1つめのメリットだと考えられます。

また、もし1次試験の総合点が420点未満で不合格だったとしても、去年合格している人が、今年の1次試験の全科目で不合格(60点未満)になることは考えにくいので、何科目かは合格するでしょう。合格した科目は、来年の1次試験を受ける際には、受験を免除できます。つまり、もし今年の2次試験に落ちて来年1次を受ける場合、全7科目の勉強をやり直す必要はなくなるということです。1次試験7科目の勉強はかなり大変なので、数科目でも免除になれば相当に負担が減るでしょう。これが2つ目のメリットだと考えられます。

結局、1次試験は合格まで毎年受けることになる

しかしよく考えてみると、 保険受験に効果があるのなら、 もし今年の2次試験に落ちた場合、 保険受験の1次試験に合格していたとしても、やはり来年もまた同じ考え方で1次試験の「保険受験」をすることになるはずです。科目合格の場合も、同様でしょう。 つまり、来年も1次試験の全科目を受け直すことになります。

結局のところ、保険受験が効果的な手法であると仮定するなら、「2次試験に合格するまで、毎年1次試験の全科目を受け続ける」ことになります。だとすれば、保険受験の「保険」の語は、翌年に1次試験受験をしなくてよいようにするための保険という意味ではく、1次試験合格(または科目合格)という「安心」を得て、2次試験でのプレッシャーを減らすための保険という意味が中心だと解釈したほうがいいかもしれません。

2次試験に集中すべきか、保険受験の勉強をすべきか

去年合格しているとはいえ、今年の1次試験でも合格しようと思えば、それなりに勉強時間を割く必要があります。そのため、「保険の1次試験の勉強時間がもったいない。その分、2次試験対策に集中した方がいい」という考え方もあるでしょう。そして「もし今年の2次試験で落ちたら、また来年1次試験合格からやり直せばいいだけではないか」と。上述のように、保険受験で1次に合格している人が、仮に今年の2次試験に落ちた場合、やはり来年にも1次試験を受けることになると思われます。つまり、今年の2次に落ちれば、どちらにしても来年また1次の勉強をするのですから、この言い分も一理ありそうです。

しかし、実際のところ、2次試験対策の学習は、1次試験ほど膨大な分量の暗記は必要なく、勉強時間もそれほど必要ない、という気がします。また、保険受験での1次試験対策対策の勉強は、忘れてしまった知識の「補充」や、内容が新しくなった「差分」のアップデートだけで済みますので、はじめての1次試験受験と比べれば、格段に楽で、そんなには時間は取られません。データがないので感覚的なものですが、「絶対合格」を目指すとしても、始めて受けたときの30~40%程度の勉強時間で、十分ではないでしょうか(去年合格している人の場合)。半分は必要ない、と思います。

それならば、よほど忙しい人は別として、勉強時間がある程度確保できる人、とくに自分のような高齢者の場合は、保険受験の意義は大きいのではないかと思います。

一方、保険受験の問題は、結局毎年受けるとすれば、毎年1次の受験料を支払わなければならないということです。これは文字通り「保険料」として割り切るしかないでしょう。

2年ごとの1次受験よりも保険受験のほうが有利

保険受験が有利な理由として、まず、ご存じのように2次試験の理論のベースは、1次試験の「企業経営理論」「財務・会計」「運営管理」の3科目にあり、少なくともこの3科目については、学び直して知識を確実に深めておくことは、今年の2次試験対策上も有益であることが挙げられます。

また、昨年学習した知識は、時間の経過でどんどん減っていきます。たとえば、昨年1次試験を受けた時点が知識のピークで、その記憶量が100だったとします。その後ほうっておけば、記憶している知識量は1年後には70になり、2年後には40になるかもしれません。これを逆に言えば、1年後に再受験するなら、30の知識補充で済むのが、2年後だと60補充しなければならないということです。時間が経てば経つほど、失われた知識を補充するのが大変になります。高齢者の場合、これに加えて、加齢の進行により記憶力そのものが低下していくことも、決して軽視できません。

さらに、「中小企業経営・政策」を筆頭に、科目によっては、制度、法律、データなどが毎年更新されます。そういう科目も、受験間隔が2年ごとよりも、1年ごとの方が「差分」が少ないため、学習はしやすいでしょう。

こう考えると、保険受験の意義は大きそうです。

もちろん、診断士の2次試験は1度で、あるいはせいぜい2度の受験で合格することが、本筋なのでしょう。診断協会が、1次試験合格者に対して2回の2次試験受験の機会を設けていることには、「1回目は失敗があるかもしれないが、せめて2回受けたら、合格しなさい」というメッセージを読み取ることもできます。その意味で、3年以上もの1次受験を想定すること自体が、本資格制度の主旨から外れているのかもしれません。しかし、診断士試験の内容は、だんだんと難化している傾向にあり(受験校などでもそれははっきり指摘しています)、実際には3回以上の受験で合格する人も少なくありません。そのような背景も考えれば、受験戦略として保険受験が選択肢にあがるのも別に不自然ではないでしょう。

自分の場合は、昨年合格できなかったことにより、中小企業診断士試験は、キャリアパスのための資格取得というより、生涯を通じた自己啓発が目的になりつつあります。そのように捉えるなら、制度の本来の主旨からいささか外れるものかもしれませんが、毎年学習を続ける保険受験も有意義であると考えています。

とは言え、やはり今年の2次試験で合格してしまいたいですね。

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コメント

  1. 西森 より:

    以前、合否の時にコメントさせていただいたものです。
    今年も受験されるのですね、よかったです。
    私も今年こそは、最後のチャンスと思い、勉強に取り組んでおります。
    (1次は背水の陣の想いで受けないことにしました。)
    事例4は、過去問や事例4の知識ノウハウを何回も解くことによって
    ある程度はできるようになったとは、思うのですが、それ以外のⅠ~Ⅲが
    やはり難しく感じます。
    各予備校ごとに解答が異なることや、適切なキーワードの落とし込みや
    文章の構成などに苦戦しています。
    またブログの更新を楽しみにしております。

    • 百軒店 より:

      西森さん、コメントありがとうございます。
      ようやくやる気が少し出てきて、これから勉強開始です。他の資格の勉強もしているため、正直、2次の合格の見込は???ですが、自己啓発だと思って進めます。
      事例1~3は、なかなか学びの成果の実感がわかないですよね。暗中模索です。
      前ほどは書くことがないのですが、たまに更新しますので、今後もよろしくお願いします。