中小企業診断士1次試験では、なぜ模試が重要なのか

東京では、暴力的とさえ感じる暑さが続いている。(2年後、本当にこの時期にマラソンやるの?)

日中、家で勉強しているとエアコン代がかさむので、TAC自習室に行こうと思うのだが、たどり着くまでの日差しを思うと億劫になってしまう。

そうやって外出が減るためか、あるいは暑さのためか、食欲があまり湧かない。つい、「診断くん」ばかり食べすぎて、お腹を壊してしまった……、と言われて、ピンとくる人は、きっと過去問をきちんと回している人だろう。その調子で最後までがんばろう。

過去問だけだと危険があり、効率も悪い

さて、中小企業診断士の1次試験において、過去問は非常に重要である。だが、少しでも確実な1次試験合格を目指すなら、過去問「だけ」しかやらないというのは、(科目によっても濃淡はあるが)やや危険があり、また効率が悪いので注意したい。

「危険がある」というのは、過去問は改正論点、時事問題には対応できないからである。「中小企業経営」だけではない。他の科目でも、改正論点や時事問題は、毎年必ず出題される。特に、昨年の本試験の後に行われた重要な法改正は、今年の試験での出題可能性が高いが、当然ながら、それは過去問には100%載っていない。

今年でいえば、経営承継円滑化法の改正や、都市計画法の改正などは重要論点で、個人的には、出題の可能性は非常に高いと思っている。他にも出てもおかしくない法改正はいろいろある。

また、法改正論点ではなくても、時事問題は必ず出題される。これは、普段から『日経新聞』を熟読して、国内外の、いわゆるPESTのマクロ動向にアンテナを張っている人なら、特別な対策は必要ないかもしれない。だが、そういう人ばかりではないだろう。

背景状況が変化した問題で、間違った知識を覚える危険

さらに、過去問では、明確な時事問題ではなくても、問題の背景状況が出題当時と変わってしまっているものも、意外と多い。

たとえば「企業経営理論」のH24年-10は、「日本から中国への企業進出が増えている」という前提での出題だ。しかし、直近では状況がまったく逆転していることは、周知のとおりだ。

あるいは、「経済学」のH22年-14は、マイクロファイナンスをゲーム理論的に解釈する設問で、面白い問題だと思うが、このリード文に書かれている「グループ連帯保証」については、コミュニティを破壊しかねないというマイナス面が大きいことから、今ではグラミン銀行でも採用をやめてしまっている。

このように、5~6年も経つと問題が前提にしている背景が変わってしまっていることもよくある。ところが、過去問だけしかやっていないと、それに気づかない場合があり、間違った知識を覚えてしまう危険性がある。

そこで、あくまで過去問中心としつつ、より確実な合格を求めるなら、過去問を補足する意味で模試を活用すべきである。模試は、最低でも1社、受験校によって作り方にクセがあるので、できれば2~3社のものを受けた方がいい。

重要な改正論点や時事問題を手っ取り早くフォローできること、また、それ以外の問題でも、常に「現在の状況」を背景にした出題がなされることが、過去問では得られない、模試のメリットである。なお、ここでいう「模試」には、受験校で行われる校内模試(TACでいえば「答練」)も含んでいる。

模試の重要度だが、科目別にみると「中小企業経営・政策」だけは特別で、「経営」分野は過去問が役に立たないので、過去問2割(政策分野だけ)で模試が8割の重要性。

「経営法務」「情報システム」は、模試の重要度が比較的高く、過去問6割、模試4割くらいの力点か。次が「運営管理」。

「企業経営理論」は、模試の重要度が比較的低い(1~2割くらい)と思う。この科目の場合、独特の奇妙な表現(要するに悪文)が用いられる問題文、選択肢文の「読み取り」が重要で、それには実際の本試験問題の文章にたくさん触れて慣れるしかないと思う。

また「財務・会計」は、他に計算問題集(TACの「集中特訓」など)などを回しているなら、模試の重要性は低いが、計算問題集などを使っていないなら高くなる、といった感じだろうか。

過去問には必ず「知らなくてもいい問題」が一定割合で含まれている

もう1つの論点、過去問だけだと効率が悪いという点について。

模試には基本的に無駄な問題は出題されない。当たり前だが、受験校各社は合格させようと思って模試の問題を作っている。いわば「予想問題集」あるいは「予想論点集」だ。もちろん、実際にその予想が当たるか外れるかは別の話だが、とりあえずやっておいて「損」な問題は含まれていないはずだ。(実際には、「?」と感じる問題もなくはないのだが。)

しかし、本試験の過去問は違う。中小企業診断士試験の本試験問題の特徴は、「落とすためだけの問題」が、必ず一定割合、含まれていることだ。

もう少し詳細に見ると、過去問の構成は、

(1)テキストに書いてある頻出論点で、勉強をしていればだれでも解ける基本問題:2割程度
(2)(1)の問い方や表現を少しひねった応用問題:5~6割程度
(3)重箱の隅をつつくような難問や、2度と出ない珍問:2割程度

といった感じになっている。

(3)の問題は、内容的にも重要ではなく、かつ、2度と類似問題が出題されない問題だ。また、診断士試験の科目合格点は100点満点の60点なので、(3)の問題がひとつも解けなくても、合格は十分可能だ。つまり、(3)の問題を学習して理解する必要はない。それなのに、過去問を頭から終わりまで「ベタ」に勉強しているとしたら、その勉強の2割は無駄だと言える。

過去問は全部解く必要はなく、(1)と(2)だけを繰り返せばいい。ところが、どの問題が(1)(2)なのかの見極めが必要になる。これが、必ずしも過去の出題頻度や正答率だけでは判断できないのが難しいところだ。

1次試験は実質的に相対評価なので、無駄な問題を混ぜざるを得ない

ところで、どうして本試験に落とすためだけの問題=無駄な問題が出題されるのといえば、診断士の1次試験は、形式上は絶対評価(一定の点数を取れば合格)だが、実質的には「相対評価」となっているからだ。

これは、過去の1次試験の合格率が20%でほぼ安定していること、また、極端に点数が低い科目があった場合に、得点調整が行われることからも、明白である。もし本当に絶対評価でいいなら、得点調整など行わずに、たとえば、10%の人しか基準点に達していないなら、その人数を合格とするはずだ。しかし実際には得点調整が行われて、20%の人が合格になる。

つまり、あらかじめ「20%の合格=80%の不合格」という相対評価での選考が前提としてあり、そうなるように問題を作っているわけだ。80%の人を落とすために、普通に勉強していても解けない問題、間違えさせるための問題が、一定(2割)程度含まれることになる(たまにやりすぎて失敗すると、得点調整が入る)。そういう問題を勉強しても、無駄なのだ。

いまからでも問題と解答を入手できれば

そのようなわけで、模試には過去問を補足する重要な役割があり、最低でも1社、可能なら2~3社のものを受けた方がいいと思う。

ただ、各社の1次試験模試の実施はすでに終わってしまった。「今からどうしろというのだ」と思う人がいるかもしれないが、上記の意味で過去問の補足として模試を使うだけなら、問題と解答だけ入手できればいい。

たとえば、診断士試験の勉強仲間に模試を受けた人がいるなら、問題と解答の冊子を貸してもらって解いてみるという方法でもいいわけだ。他の方法もあるかもしれない。それは各自で工夫してほしい。

暑さにはうんざりです。

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