前回、「中小企業診断士2次試験の対策として、日経新聞のコラム「春秋」を使った大意要約練習を見かけるが、これはあまり効果的ではないだろう」という趣旨の記事を書いた。それは「春秋」が論説文ではなく、文芸的なコラムであるという理由によるものだ。
「春秋」が向いていないなら、大意要約練習にはなにを使えばいいのか? それは、「社説」だ。
Mさんのコメント
前回の記事の続きとして、お薦め練習素材としての「社説」について書こうと思っていたところ、その記事にMさんという方がコメントを寄せて下さり、そこで社説の良さについて、丁寧に説明していただいた。うまくまとめて下さったので、まず前回記事のMさんのコメントをお読みいただくことをお薦めする。(Mさん、ありがとうございました)。
また、Mさんは社説を使った練習方法として、「書き写し」と「要旨・要約」を薦めている。ほとんど異論はない。ただ、ある程度のレベルの人には、書き写しはちょっと退屈だろうとも思う。また、文章力が低く、書くのが苦手な人には要約はちょっときついかもれいない。
そこで私が考える、「社説」を素材としたレベル別の練習方法を紹介する。いま、自分で実際にやっている方法ではないが、やれば2次試験対策に効果はあるだろうなとは思う。
「書くことが苦手、文章レベルが低い」と思う人向け
明確な基準はないが、「読み書きは苦手だな」と自分で思う人の場合。ブログに1000字程度の記事を書くのが大変、という人。
Mさんも言うように、「書き写し」がお薦めだ。これは、文章練習の基本中の基本とも言える方法で、だれがやっても得るものがある。しかし、書くことが苦手だったり、文章(読み書き)レベルが低いと自覚してる人にはとくに強くお薦めする。上手なお手本を真似ることは基本であり、遠回りなようで効果的だ。
新聞の社説というのは、診断士試験の与件文と性質が近い、論説文である。しかも、「社説」というくらいだから、日本を代表する新聞社が会社の名前で発表する論説であり、内容も構成もしっかりしている。結論への賛否は別として、「論」の作り方として学ぶべきものがある、論説文のお手本だ。朝日新聞か日経新聞のもの(どちらもWebサイトで無料で読める)がよいだろう。
やり方だが、原稿用紙のようなマス目が印刷されたノートに、好きな新聞の社説を毎日1本(時間があれば2本)、そのまま書き写す。PCを使ってもいいのだが、手書きの方がよいと思う(本試験は手書きだし)。
作業としては単純なのだが、書き写すときの「意識」をしっかりしておかないと、効果が薄い。
つまり、頭で別のことを考えながら手だけ動かしていても効果は薄い。「どうしてこういう論理展開になるのか」「なぜこういう言い方をするのか」など、意識しながら書くことが重要なのだ。つまり筆者の「気持ち」になって、自分が論理を作るつもりで書き写す。書いた人(設問者)の気持ちになって考えることは、試験問題の読解においても基本であろう。
あわせて、書き写したあとの「音読」も、私はお薦めする。そんなにたくさんやる必要はなく、通して3回程度で十分だろう。10分もかからない。音読の効果について書いているWebサイトはいくつもあるから、ここでは書かない。興味がある人は検索してほしい。
そして、ある程度慣れてきて、自分でも力がついてきた感じられるようになったら、書き写しに加えて、次の「読み書きレベルが中級以上の人向け」で紹介する要約練習も加えるといいだろう。
なお、大学受験のとき「現代文」が苦手だった、あまり勉強しなかったという人には、基礎として高校生向け(大学受験用)の「現代文」(「国語」ではなく)の参考書を1~2冊読んでおくことをお薦めする。最新版である必要はないので、ブックオフとかメルカリで安く買えるもので十分。(残念ながら最近の参考書のことは知らないので、具体的にどれがおすすめというご紹介はできない)。
読み書きレベルが中級以上の人向け
明確な基準はないが、「読み書きは苦手じゃない」と自分で思う人の場合。ブログなら、毎回1500~2000字くらいは簡単に書けるよ、という人。
こちらは、「社説」の要約練習を薦める。(余裕があれば、書き写し+要約)。ただし社説の難点は、タイトルがあらかじめ付けられてしまっていること。タイトルというのは究極の要約なので、短文の要約だと結局タイトルとほとんど同じになってしまうことが多い。
また、30~40文字程度の短い要約だと、文中のキーワードを拾ってつないでいくだけで、なんとなくそられしくできてしまう。論理構成力の練習という点では効果が低い。そこで、100文字で要約する練習が良いだろう。100文字だと1文にも2文にもできるし、「展開」を考える必要もあり、論理的構成力が鍛えられる。
書き写しと違って、100字要約は一度でしっくり書けることはまれで、何度か推敲する必要があるだろう。だから、PCの方がやりやすいと思う。
応用:さらに高度な方法
さらに、時間は必要だが、抜群に効果的だと思われるのは、2紙(「朝日」と「日経」など)で、同じテーマを扱っている社説を使う方法だ。新聞社説は時事的なネタを取り扱うから、同じ日に同じテーマを扱っていることも多い。たとえば、今日(2018年1月22日)は、朝日、日経両紙とも「NHKの経営計画」について論じている。
そういうときに、まず両方を100字で要約する。
そして、それを踏まえた上で、両社説の主張のどこがどう違っているか、その違いをまとめる。これは200字くらいは必要だろう。もっと長くてもいい。ポイントは、なるべく論点を同じ座標に置き、どこに違いがあるのか、(またはないのか)を、明確にすること。この、論説の配置座標を考えることが、とてもよいトレーニングになる。これを週1回でもやれば、読み書きの力はかなり上がるはずだ。
100文字要約にしろ、2社比較にしろ、可能であればコメントしてくれる人にチェックしてもらうことが望ましい。「先生」に見てもらうことがベストだが、そういうチェックをしてくれる先生はなかなか見つけくいだろう(ソーシャルサービスで探す方法があるかもしれない)。
勉強仲間がいるなら、仲間同士でチェックしあうのが良いだろう。私はそういう仲間がいないのでよくわからないが、続けるモチベーションにもなるかもしれない。なお、相互チェックする際のポイントは「論理的な整合性」である。
続けるのは大変だが、続けないと効果はない
いずれにしても、こういう練習はすぐに大きな効果が出るものではない。毎日続けても、1か月くらいでは目に見える効果はないとは思う。最低でも半年程度は続ける必要があるだろう。もしかしたら、効果が出るのに1年くらいかかるかもしれない。申し訳ないが、統計データがあるわけではないので、おおざっぱな肌感覚での推測しかできない。
1回1回はさほど大変な作業というわけではないが、継続するのは大変かもしれない。だが継続しないと効果は薄い。
だから、「なるべく楽して、効率的に合格する方法」とか「聞き流すだけで英語を話せる方法」みたいなことが好きな人には、お薦めしない。
コメント
僕のコメントを取り上げていただき有難うございます。百軒店さんは現代文の大家とお見受けし、生意気なコメントしちゃって赤面の限りです。
私のケースでいえば、専門がITで何十年もワープロばかりで漢字もろくに書けない状態からのスタートでしたので、日経社説書き写しには本当に救われました。もちろん全て手書きです。現代文の素養もなく、特に全体の構成確認と要旨・要約作業で頼りにしたのはTOEFLで学んだ英文のwriting theoryでした。しかし、これが本当に良かった。日経社説や2次の与件・解答手順は英文のそれに完全に沿っていたからです。幸い1次・2次をストレートで突破できた要因の一つはこの訓練だったことは間違いなく、僕と同じようなスタートラインの方には特にお薦めです。1ヶ月程度で社説を一読して要旨・要約が抜き出せるようになります。
百軒店さんのやり方とは少々異なりますが、いづれにせよ「社説がお薦め」という点では相違ありません。良い記事を有難うございました。
Mさん
コメントありがとうございます。
大家などではまったくないですが、長いこと出版・編集の仕事をしていましたので、職業的な必要から、文章の読み書きについて意識的に努力はしてきました。また、部下への文章指導もしていましたので、そういう現場で学んだノウハウも多少あります。
日本の高校までの国語教育では、論文の書き方とかディベートみたいな、論理思考についてはほとんど教えないので、それが英米の語学教育とはだいぶ違うのでしょうね。(いまの大学ではどうなのかわかりませんが)。日本人が英語が苦手な理由はいろいろあるのでしょうが(母音の少なさとか)、「論」を組み立てるやり方を習ってこなかったこともあるかもしれません。
それにしても、ストレート合格、すごいですね。大変な努力をなさったことでしょう。尊敬します。私もあやかりたいですが、やはり加齢には勝てず、暗記物がぜんぜんダメです。
また気軽にコメントください。
僕も同年代ですよ。心から応援しております。
ありがとうございます。
お若い方かと思っていましたが、同年代だったのですね。
勇気づけられます!