診断士2次試験対策としての「春秋」要約って?

中小企業診断士の2次試験対策として、「春秋」を読んで内容を要約するという練習がおこなわれていることを、最近知った。昔からある方法なのか、最近の流行なのかは知らないが、複数の人のブログ記事で見かけたので、やっている人は多いのかもしれない。

ご存知の方も多いだろうが、「春秋」というのは日本経済新聞に掲載されているコラム欄で、朝日新聞でいえば「天声人語」にあたるものだ。この「春秋」を40字などと文字数を決めて要約することで、文章の大意を一定の文字数にまとめる練習をするという趣旨らしい。

勉強は人のためではなく、自分のためにするものだし、主体(の状況)によって効果は違うのだから、自分で効果があると感じられる方法を、なんだって採り入れればいい。個々人の学習方法を批判するつもりはまったくない。

それを踏まえた上で、一般論としていうならば、私はこの方法は、中小企業診断士の2次試験対策としては効果が薄いというか、ちょっとピントがずれていると思う。なぜ「春秋」なのだろう?

注意:以下、2次試験を受けたことがない。問題をいくつか読んだことがあるだけの者が書いていることなので、ぜんぜん間違っているかもしれません。その点をご承知の上でお読みください。

日経新聞のWebサイトでは、「春秋」はオピニオン(主張)ということになっている。しかし、何日分かを読めばわかるが、これは随筆、またはコラムである。主張のようなものが有るときもあるが、ないときもある。一口で言えば、「文学」のジャンルだ。

一方、診断士の2次試験で与えられる与件文は、文学ではない。広い意味での論説文の一種である。したがって、目標(2次試験与件文)と、練習素材(春秋)が、似て非なるものということになる。そのため、「春秋」での要約練習は効果的ではないと思える。

着眼点やレトリックを「味わう」ための文章が随筆

「春秋」は随筆(エッセイ)あるいはコラムとでも呼ぶべきものである。筆者の随想(そのとき適当に思いついたこと)を、読者が面白く読めるように、文学的なレトリックを加えて表現したものだ。著者の着眼点の面白さを楽しんだり、文章のレトリックを味わったりすることが目的となる文章である。だから、随筆に明確な主張や論理性は不要である(あってもよいが、なくてもよい)。

『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日(俵万智、『サラダ記念日』)

この文学作品には、一般的な意味での主張や論理性はない。ただ強烈に印象的な修辞によるイメージの広がりがあるだけだ。もちろん、文学作品なのでそれでよい。

「春秋」も基本的にはこういった詩歌と同類の文芸作品のジャンルにある文章だと考えた方がいい。

そして、この種の文芸的な文章の「要約」において重要なのは、その文学的な要素(面白さや味わい)を損なわずに伝えられるようにまとめることである。要約において求められるポイントは「論理力」ではく「修辞力」だ。だから、修辞力を身に付ける目的で文芸的な文章(春秋)の要約を行うのではれば、それはよいだろう。しかし、診断士2次試験で求められるような論理力を身に付けたいのであれば、あまり効果があるとは思えない。

逆にいうと、上の歌を論理的に要約することに意味がないように、「春秋」のような文芸作品を「論理的」に要約しようとすることには、あまり意味がないということだ。

論説文は論理が命

一方、中小企業診断士の2次試験で与えられる与件文は、文学的な興趣やレトリックを楽しむための随筆ではない。あえていえば、報告文(レポート)であろう。広い意味では、論説文の一種だ。

論説文は「主張」と、その主張を裏付ける事実の客観性、およびそれらを素材として組み立てられる「論理」が重要である。2次試験の与件文は報告文(レポート)であるため、表立って著者の主張が展開されることはない。しかし、「評価」(この企業には問題がある、等)という形での著者の主張が、通底に流れている。また、その評価を構成する素材は、客観的な事実と、事実から構成される論理である。

だから、与件文を深く読み解くために必要となる中心的な力は、事実の意味を理解するための知識と、論理力だ。これは通常の論説文を読み解くときと同様である。随筆とは「読み方」のポイントが異なる。

さらに、与件文は、出題のために作られた文章なので、あえてわかりにくくしているところがある。普通であればしっかりと書かれていなければならないところが、あえて書かれていない、といったところだ。それを、知識と論理力で推定していく。

したがって、与件文を読み解くために鍛えるべきなのは、主に言語的な論理力だ。(知識については、1次試験対策によって身に付けていることを前提とする)

二次試験は「国語力」だといわれるが

これを突き詰めて考えていくと、「言語力とはなにか」あるいは、「論理とはそもそもなにか」という非常に難しい話になってしまうので、私の手には余る。ウィトゲンシュタインの言語哲学とか、そういう領域の話になるだろう。

ただ、通常「国語力」と呼ばれるものには、数理的な論理力も含まれているということは、意識しておいていいかもしれない。

会話の中で、一定のコンテキストにおいて、「語られていないこと」を推察する力は、言語力に他ならないが、これは語彙力とも修辞力とも異なり、数理的な論理力に近い。おそらく、ベン図を書けば国語力の集合と数理力の集合には重なるところがあって、それが、よく言われる「論理力」になるのではないだろうか。そして、診断士2次試験で必要とされるのも、その部分であるように思える(決して、語彙力や修辞力としての「国語力」ではない)。

そう考えると、論説文ではない「春秋」という素材を使った要約練習は、診断士2次試験対策としてはあまり適しているとは思えない。(もちろんそういう練習でも、何もしないのとくらべれば、やった方がマシではあろうが)。

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コメント

  1. M より:

    まったくもって同感です。同じ意見の人がいて安心しました。
    2次試験突破に必須となる国語力向上(読解力・記述力)については、僕のお薦めは同じ日経ですが社説の書き写しと構成の確認、そして要旨・要約作業です。社説は論文同様に必ずwriting theoryに沿って書かれてますので、①結論、②背景、③論拠(帰納法、演繹法、時系列など )、④まとめ・展開、がきわめて明確です。要旨(main point)は、最初の文節(paragraph)から、要約はそこに論拠を加えればサクッと完成です。2次試験の与件文は多少変則的な場合もありますが、基本線はブレてません。逆に、writing theoryからの逸脱があれば、そこにはなんらかの明確な意図があります。
    そんなわけで、社説書き写しはとても効果的です。時事ネタの把握や漢字練習にもなりますしね。いまの時期には余力があるなら1ヶ月くらいはやって損はありません。前提として、論文のwriting theoryは押さえておいた方が良いです。例えば「ロジカル・シンキング」「ロジカル・ランキング」などの書籍はお薦めです。
    なおブログを拝見するに、論理思考はとてもしっかりされているので、いまは1次対策や計算練習に集中された方が良いようにも思われます。1次突破しないと2次はありませんものね。

    • 百軒店 より:

      M さん、コメントありがとうございます。
      実は私も「社説」がおすすめという記事を、この続きで書こうと思っていました。
      本当なんです、後付けじゃありません(笑。

      「ロジカルシンキング、ロジカルライティング」系の書籍は、昔に何冊か読んでいて、読んだときは「なるほど」と思うのですが、完全に定着させて使いこなすのは、なかなか難しいですね。多数の実践で使わないと定着しないと思うのですが、その機会がなかなかないからかもしれません。

      1次の学習は、暗記中心でつまらないところもあるのですが、たしかに1次を突破しなければはじまらないので、がんばります!

  2. M より:

    百軒店さん、ネタを先取りしちゃって本当に恐縮です。素晴らしくセンスが良く納得感の高い文章をお書きになるので、思わず反応してしまいました。これからの記事も楽しみにしております。

    • 百軒店 より:

      過分なお言葉、ありがとうございます。
      こんなブログをやっていても合格に結びつく効果があるかどうかは???なのですが、書くこと自体が割と好きで、ストレス解消にもなっているので、続けています。
      今後もご笑覧いただければ幸いです。

  3. はち より:

    実は同じく渋谷で講義受けてます(笑)

    うん、うん、と思わずうなずくこと多々です

    お互いがんばりましょうね

    • 百軒店 より:

      はちさん、はじめまして。
      コメントありがとうございます。
      渋谷の土曜クラスですか? それなら、同じ教室ですね!
      今日もE講師の早口で、ぐったり疲れました(笑。
      だんだんやることが増えて大変になってきましたが、お互いがんばりましょう。

      • はち より:

        二次対策について
        現状の受験校提供内容は、かなりビミョーですよね
        先日のやつは、倍速で見ました

        E講師、しかし、毎週ムッチャ元気ですよね

        財務出られましたか?
        内容は良かったですか?
        迷いに迷い、受講しませんでした

        • 百軒店 より:

          はちさん、こんばんは。
          先日のやつというのはWeb配信の「2次スターアップ」ですよね。あれは名前の通り、スタートのためのガイダンスみたいなもので、中身はあまりないですね。私も、1回流し見しただけです。本科生「PLUS」だと、2月から演習がはじまるようですが、私は「PLUS」をつけていません。2次は、確かに学習方法が難しいですね。どうしようか、まだ手をつけかねている感じです。

          ただ、事例Ⅳについては「2次事例Ⅳ特訓」オプションを申し込みました。これは計算なので、やることはだいたい決まっているでしょうから、早めに取り組んで計算パターンを覚えておいた方がいいかな、と。また、E講師の寺子屋には、いまのところ出席するつもりです。

          一方、今日あった「1次財務会計特訓ゼミ」は申し込みませんでした。

          1次の財務の計算問題は、『集中特訓財務・会計計算問題集』と、過去問を12,3年分まわせば十分だと感じましたので。『集中特訓財務・会計計算問題集』は、もしまだやっていなければ、おすすめですよ。解説もくわしいです。メルカリにもよく出されています。最新は第6版です。(ちなみに私は問題集や参考書は、だいたいメルカリかアマゾンかブックオフで古本を買います)。

          参考まで。