その昔、貧乏学生だったころ、古書店で見つけた少し珍しい本を買おうか買うまいか迷って先輩に相談したところ、「迷ったら買っておけ」とのお言葉。以後、その教えをだいたい守ってきたが、おかげで中小企業診断士試験の勉強をはじめてからというもの、急速に本が増えて困る。
なにしろ本というのは重いし場所ふさぎだ。それなのに、1冊の本のうちで、自分にとって役に立つ部分が半分もあったら大収穫で、たいていは1~2割程度、下手したら数ページしか有用部分がないことさえある。
それでも、その数ページが1冊の本の中に位置づけられていることが重要なので、迷ったら買っておいた方がいいというのは、やっぱり正しいのだと思う。
今はネットで多くの情報が得られるが、きちんとした出版社から出版されている本の方が、断然信用できる。ウソだと思うなら、映画『舟を編む』(原作は三浦しをんの小説)を観てみるといい。ウィキペディアにはウィキペディアの良さもあることは知っているが、信頼性という点では、紙の辞書に比べるべくもないことがよくわかる。
「googleは信用しない。SEOされているから」
ネットは手軽に情報を得ることができるが、個々の情報の断片は相互の関連も重みづけもなく、同一平面に並べられているのが困る。いや、本当に重みづけが無いならまだいいのだけど、実際は「検索順位」が利用価値の大きな基準になっており、しかもその順位(≒価値)がある程度人為的に操作(SEO!)されているから困るのだ。
最近の、若くて「意識高い系」って言うんですかね? よく知りませんが、そういう系の人たちは、「googleの検索結果は信用しない。なぜならSEOされているから」と言ってはばからず、もっぱらインスタのハッシュタグで情報サーチしているらしいですが、それは半分くらいは正しいのだろう(半分以上は、マーケ屋が盛った話だと思っていますが)。
まあ、話半分だけ信じたとしても、若くて意識高い系の人たちの行動が、自分のような古くて意識低い系の中高年と、奇妙なシンクロをしているとすれば、なんだか面白いような気もする。私も、googleはもちろん使うが、その検索結果については、学習のための知識の源としては(信用していないというより)使い勝手が悪いときがあると思っている。
情報の配置と記憶
同一平面上に無秩序に並べられた情報は、また、記憶するのにも不適切だ。人間の(もしかしたら私だけの)脳は、知識のランダムな保管と検索がとても苦手で、構造の中に関連づけられていないと、覚えられないし、使えない。
たとえば、
犬、雲、足、海、穴
というバラバラの語を10秒見せられて、これを覚えろ言われたら、仮に覚えたとしてもすぐに忘れてしまうだろう。しかし、
入道雲が浮かんだ海辺の砂浜で、犬が足で穴を掘っていた
というように、単語が構造(≒ストーリー)の中に位置づけられており、全体がイメージとしてとらえられれば、なかなか忘れない。
あくまでメタファだが、前者が、つまりインターネットで得られる情報であり、後者が書籍だ。
『ざっくり分かるファイナンス』
閑話休題。
前回、中小企業診断士試験の「財務・会計」科目の財務会計分野(いつも思うが、ややこしい)の基本参考書として『財務3表一体理解法』『財務3表実践ドリル』を採り上げた。今回はその続きでファイナンス分野の基本参考書を紹介したい。
ご存知の方も多いだろうが、ファイナンス分野については『ざっくり分かるファイナンス』(石野雄一、光文社新書)の評判がいい。もちろん、googleで調べた評判だ。
この本は、アマゾンの「Kindle Unlimited」(読み放題サービス)にラインナップされている。私は同サービスを利用しているので、Kindle版で読んだ。ただ、ペンで書き込みができないので、学習書はやはり紙の本の方がいい。

写真も紙の本の方が撮影しやすい。
本書はファイナンスがテーマなのだが、第1章は財務会計(財務3表の基本)の話にかなりのページを割いている。新書という性格上、会計の前提知識がない一般的なビジネスパーソンを主要ターゲットと考えたのだろう。でも、ファイナンスのことを知りたいと思う人はたいてい、財務会計の基本知識はすでに持っているのではないだろうか? その意味で、1章はちょっと冗長な感じがした。
ファイナンスの話に入る2章以降は、基本的な知識が要領よくまとまっている。図解もわかりやすい。新書だから当然だが、細かい論点に深入りしすぎないバランスがいい。文章も読みやすいので、2時間もあれば読了できる。
診断士講座でファイナンスの学習をした人なら、知識を再確認するために、これから学習する人なら予習として、一読する価値はあるだろう。おすすめできる。
NPVもIRRもスッキリ。おまけにROICとEVAも。
個人的によかった部分は、以下。
企業価値算定における「NPV」と「IRR」。正直、TACのテキストだけでは、自分には腹落ち感がなかった部分だったが、この本の説明を読んでだいぶすっきりした。テキストもこういう風に書いて欲しいね、と思うが。それはそれで難しいところがあるのだろう。
ROICとEVAの説明。診断士試験(一次)にROICは出たことないようだが、EVAは一度出題されている(H24-20)。一度だけなので、診断士試験的にはあまりポイント高くないのかもしれないが、TACの『財務会計計算問題集』には出てくるので、気になっていた。ビジネスパーソン向けの会計の啓蒙書やビジネス雑誌など読んでると、「ROEの次に重要なのはEVA」みたいな話が出てくることもあるので、ビジネスパーソンの常識として、ROICとEVAは理解しておいた方がいいのだろう。
あとは小ネタだが、将来キャッシュフローをベースにDCF法で企業価値を算出したとする。そのときに、決算書の項目にはなっていない企業の優位性、たとえば「ブランド」なども、別途で計算して加えるべきではないか?という話。これは加えてはいけないのだけど、それはなぜかという話。なるほど、という感じだった。
管理会計のいい入門書は?
前回、財務会計の入門書を紹介して、今回はファイナンス。
あと、管理会計で新書レベルの手軽な入門書があれば良いが、見つけらていない。なにか良い本があったらご紹介ください。『餃子屋と高級フレンチ』を読み直してみようか。出た当時に読んだが、コンサルの先生が異常にグルメだったことしか覚えていない。